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SERPICO.GIF

「Donnie Brasco (邦題:フェイク)」の劇場パンフレットによれば、主演のジョニー・デップはパチーノが「Serpico」を撮った時と同じ33歳だそうで、その役柄の類似性(FBI潜入捜査官と覆面刑事)から、“運命の巡り合わせ”と書き立てられている。
その“劇的”共演の余波を受けてしまったのか、「Donnie Brasco」を観た僕は、不覚にもパチーノを“見失って”しまった。
こんなことは初めてだった。

いつもなら、パチーノに関するイメージの羅列が脳内で極限まで膨らみ、踊り狂い、役柄と演技との相関性を整理し始めようと格闘するのだが・・今回はまるで駄目だった。
パチーノが完全に“埋没”してしまっているのである・・レフティーと呼ばれる、しがないチンピラの中に。 
そこに確かに潜んでいるはずのプレーヤー、アル・パチーノがどうしても浮かび上がってこないのだ。初めての体験に戸惑いながら、僕は一人の俳優のことを思い出した。ダニー・アイエロという、“イカツイ”男のことを。
「レオン」で殺し屋稼業の元締めを演じていた、(元は用心棒だったと云うだけに)本物の怖さが全身から滲む男優である。(余談だが、主人公レオン(ジャン・レノ)の非日常的キャラクターにリアリティを持たせていたのはアイエロの存在だ)そんな彼がパチーノと初共演した「CityHall (邦題: 訣別の街)」のワン・シーン(実は二人が台詞を交す唯一の場面)について子供のような笑顔を浮かべ、インタヴューに答えていた。「信じられへんかもしれへんけどな、ええか、俺が云うんやさかい間違いないで。よう聞けや・・。あの時のアルはアルやなかったんや・・。 アルはパパス市長やったんや、ほんまに・・」雰囲気を考慮して(“横山やすし”のような)大阪弁で翻訳してみたが、アイエロはとてもベテランとは思えない初々しい反応をカメラの前でまるで隠そうとしなかった。 
“パチーノはパチーノじゃなかった” アイエロが伝えようとした一点の事実を思い出し、戸惑いは至福の喜びへと変化した。僕はパチーノを“見失った”のではない。パチーノを見失うことによって、アイエロのように真実の彼の姿を見つけたのである。 
「スクリーンの上にいたのは、パチーノじゃない。渡世のしがらみに全身を絡めとられた、レフティーそのものだった」 
戸惑う代わりに、僕は歓喜してパチーノを“見失った”と公言すべきなのだ。「Donnie Brasco」にはパンフレットが書き立てるような「Serpico」で鬼気迫る覆面刑事を演じた名優の姿など、 “何処にもなかった”のである。

ところで、パチーノが「Donnie Brasco」でのデップに続き、かなり年下のキアヌ・リーブスと共演した「The Devil's Advocate (邦題:ディアボロス~悪魔の扉)」を鑑賞した際も、そこにいるのは、アル・パチーノではなかった。そこにいたのは・・パチーノではなく、 何と○○だった!のです。(○○はストーリー上、伏せておきます)【了】 

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